2013年7月9日火曜日

族と系

Trevesの超関数論の本を読んでいて自分の理解が浅かったと思う一例として,族と系の概念の違いがあります.松坂和夫氏の「集合・位相入門」ではこれらの概念の違いを最初に明記しており,私はこの本で集合論の基礎を学んだはずなのにこれまで全然区別してきませんでした.族はfamilyの訳語,系はsystemやcollectionの訳語として用いられることが多いようです.

たとえば集合$X$の点の族は$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$のような書き方をしますが,これは添字集合$\Lambda$から$X$への写像を表しています.この写像を$f$と書くことにすれば,任意の$\lambda\in\Lambda$に対して$f(\lambda)=x_\lambda$を満たしているということです.そういうわけで$f=(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$と書くこともあります.これは$\lambda_1, \lambda_2\in \Lambda$, $\lambda_1\neq \lambda_2$に対して$x_{\lambda_1}=x_{\lambda_2}$であるような場合も許容します.多くの本では点の族(特に点列)のことを$\{x_\lambda\}_{\lambda\in \Lambda}$ ($\{x_i\}_{i\in \mathbb{N}}$)という表記でも扱っていますが,こちらは集合$\{x_\lambda | \lambda\in \Lambda\}$であるので概念的に全く異なります.例えば実数列$(x_i)_{i\in \mathbb{N}}$を任意の$i\in \mathbb{N}$に対して$x_i =1$であるようなものとすれば,$\{x_i\}_{i\in \mathbb{N}}=\{1\}$という唯1つの元のみからなる集合となってしまいます.杉浦さんの解析入門などでも点列は$(x_i)_{i\in \mathbb{N}}$のようにきちんと概念上の区別をおこなって表記されていますが,昔の自分はこちらの表記に違和感を感じてわざわざ$\{x_i\}_{i\in \mathbb{N}}$に書き直してノートを取ったりしています.よく概念上の違いに気づかずに今までやってこれたものだと思ってしまいます.Trevesの本でもこの辺りの概念の違いを明確に出来ていないようです.

また,〇〇系という言葉は,〇〇を要素として持つ集合という意味で用いられます.例としては,集合系(集合を要素とする集合),近傍系(近傍を要素とする集合),座標近傍系(座標近傍を要素とする集合)などです.族というときには写像であるので定義域となる添字集合が必要ですが,〇〇系という場合には添字づけられていようがいまいが自由です.例えば多様体$M$の座標近傍系はよく$\{(U_\lambda, \varphi_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda}$と表記されますが,これは$M$の座標近傍$(U_\lambda, \varphi_\lambda)$を要素とする集合という意味です.

何故このようなエントリを書いたかというと,じゃあこれまで誤解していたところを全て修正してやろうと考えたときに,ルベーグ積分論の完全加法族やボレル集合族はそれぞれ完全加法的な集合系やボレル集合系じゃないの?と思ってしまったからです.英語表記では,完全加法族はcompletely additive classまたは$\sigma$-algebra, ボレル集合族はBorel algebraです.その他単調族はmonotone class, 有限加法族はfinitely additive classになっているので,結論としては族はfamilyの訳語ではなくclassの訳語だと思えばよいみたいでした.

またもう1つ困っていることとしては,Warnerの可微分多様体とLie群の本では,上で述べた座標近傍のことを座標系(coordinate system), 座標近傍系のことをcollection of coordinate systemsと呼んでいます.後者のほうは,無理矢理訳すと「座標系の集まり」くらいしか訳語が思い当たりません.さすがに座標系の系と訳すのはナシでしょう.collectionを集まりと訳すのは何だか負けた気がするので,座標近傍(coordinate neighborhood)と座標近傍系(system of coordinate neighborhoods)に統一しようか思案中です.でも近傍と言われると何の近傍なの?と思ってしまうのですが,どうしたものか.